低発熱・収縮抑制高炉セメント

「高炉セメント」は,混合材として,「高炉スラグ微粉末」を用いた混合セメントで,高炉スラグ微粉末は,溶鉱炉で銑鉄と同時に生成する溶融状態の高炉スラグを水によって急冷し,これを乾燥・粉砕したもの,又はこれにせっこうを添加したものである。
 「高炉スラグ微粉末」は,JIS A6206(1997)に「コンクリート用高炉スラグ微粉末」として,主に比表面積の違いによって「高炉スラグ微粉末4000」,「高炉スラグ微粉末6000」,「高炉スラグ微粉末8000」の 3 種類が規定されている。また,「高炉セメント」は,JIS R5211(2009)「高炉セメント」に,高炉スラグの分量によって「A 種」,「B 種」,「C 種」の 3 種類が規定されている。高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートは,(1)水和熱による温度上昇の抑制,(2)アルカリシリカ反応の抑制,(3)硫酸塩や海水に対する化学抵抗性の向上,(4)塩化物イオンや酸素の浸透に対する抵抗性に優れているため,海洋雰囲気の条件下における鉄筋を保護する性能の向上等の効果が期待されることから,生産量を伸ばしてきた。
 しかしながら,1990年代後半頃から,初期強度を高くするため,高炉セメントに JIS 規格の範囲内で比表面積の高い高炉スラグ微粉末が使用されるようになってきた。この結果,コンクリートの断熱温度上昇量が高く,かつ,自己収縮量が大きくなり,マスコンクリートでひび割れ発生の危険が大きくなるという問題が発生するようになった。
 このような背景の中で,高炉セメントの発熱量と自己収縮を抑制するために,開発が進められたのが,「低発熱・収縮抑制型高炉セメント」である。「低発熱・収縮抑制型高炉セメント」は,JIS R5211の範囲内で高炉スラグ微粉末の比表面積及び化学成分(せっこうの量など)を調整されたセメントであり,用途としては,(1)コンクリートのひび割れを抑制した高耐久性コンクリート構造物等,(2)ダム等の大規模なコンクリート構造物,海洋構造物等,(3)粉体量を多くする必要がある高流動コンクリート等がある。近年,普及している比表面積の大きい高炉スラグ微粉末を用いた高炉セメントに対して,比表面積の小さい高炉スラグ微粉末を用いて差別化を図っている。

参 考 文 献

JIS R5211(2009):高炉セメント
   

JIS A6206(1997):コンクリート用高炉スラグ微粉末
   

土木学会 コンクリートライブラリー86:高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートの施工指針
   

二戸信和ほか,高炉セメントの特性を活かす(低発熱・収縮抑制高炉セメントを用いたコンクリートの性能と実施工),セメント・コンクリート,No. 722, Apr. 2007, pp10-16
   



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