ドップラーライダ

 ライダ(LIDAR)とは,Light Detection And Ranging の略で,光を用いたリモートセンシング技術の一つで,パルス状に発光するレーザ照射に対する散乱光を測定し,遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析するものである。使われている光がレーザであることからレーザレーダとも呼ばれている。気象レーダが波長 3〜10 cm の電磁波を使い,mm から cm スケールの降水粒子を測定するのに対し,ライダは,紫外線,可視光線,赤外線を使用し,エアロゾルや雲水(100 mm 以下の水滴)を測定する。ライダには表―1に示すように様々な種類がある。


  このうちドップラーライダとは,測定対象の移動速度を計測できるものであり,ミー散乱ライダや差分吸収ライダのように物質の同定や量を測定するものと異なる。レーザ光を空間に発射し,大気中のエアロゾルからの散乱光を受信して,戻ってきた光の信号周波数成分を解析する。エアロゾルがある速度で移動しているとき,発射したときの周波数と戻ってきたときの周波数が異なってくる。これはドップラー効果と呼ばれている現象であり,移動する測定対象からの信号は,その移動速度に応じたドップラー速度成分を持つ。この周波数差から,大気によって運ばれるエアロゾルの移動速度が分かり,これを大気の風速とみなして観測を行う。また,レーザ光を繰返しパルス送信しながら,レーザビームをスキャン(走査)することで,測定対象までの距離と方位を測定することができる。  
  ほかに風を観測する主な機器として,1)風向風速計,2)繋留ゾンデ,3)ドップラーソーダ,4)レーウィンゾンデ,5)ウィンドプロファイラ,6)ドップラーレーダなどが挙げられる。
 このうち風向風速計を用いた観測は,最も標準的な風向・風速の計測法である。測器にはカップ式,矢羽根式,超音波風速計などいくつかの種類があり,時間的な乱れの計測が可能である。しかし,風速計が据え付けられた 1 点の風向風速のみの計測であり,高さ方向の連続した情報の取得が困難であること,機器を設置する際には行政機関に農地転用等の申請を行わなければならない等の制約がある。
 ドップラーライダと同様にリモートセンシング技術として開発された風速計としてドップラーソーダがあげられる。これは音波を真上に発射し,発射した音波パルスの上空からの後方散乱波を受信し,各高度からの受信信号を FFT 処理(高速フーリエ変換処理)によりドップラー効果による周波数差を検出し,各高度の風向風速ならびに鉛直風速を測定する装置である。5〜10分間隔で上空の大気を連続的に観測可能であるが,測器自身がかなり大きな音を出すこと,周りの騒音の影響を受けることから,観測場所の制限を受ける等の制約がある。
 ドップラーライダは,他の測器と比べると,霧や雲があるところでは観測できないといった不利があるものの,上空や水平面の風向・風速を連続的に観測できること,設置に要する面積が小さいこと,法認可が不要であること,無音であることが利点としてあげられる。このため,風速計の設置が困難な海上や高層建築現場,地形が複雑な山岳風などの風解析のほか,都市の排熱によるヒートアイランド現象などの都市環境風況モニタリング装置としても役立つことが期待されている。

参 考 文 献



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