衝撃弾性波法

非破壊試験法の一種。物体に打撃などの衝撃を加え,発生した弾性波を目的に応じた方法で計測・分析することによってその物体の劣化状況・損傷の有無・応力状態等の把握が可能となり,健全性を評価することができる。
 様々な分野に適用されているが,本項では主に土木構造物への適用に関し,その特徴,適用事例について紹介する。

1. 衝撃弾性波法の特徴
 衝撃弾性波法による計測では,主に打撃装置(ハンドハンマー等小型のもの),受振センサー,データロガーを組み合わせて用いる。
 これら装置は軽量であるため,人力で容易に運搬が可能であり,最も重量のあるデータロガーは定位置に据え置き,受振センサーのコードを延長することによってデータロガーを持ち運ぶことなく広範囲での計測が可能となる。

2. 適用事例
 1) コンクリート製基礎杭の健全性評価
 従来,既設基礎杭の健全性を評価する機会は稀であったが,近年既設基礎杭を流用して構造物を再構築する等のケースが出てきたことから,同時に地中部に構築された杭の健全性を評価することが求められるようになった。
  既設基礎杭の健全性評価は杭頭部に静的な荷重を作用させる載荷試験(押し込み試験)等で主に軸力に対する耐力の評価が可能であるが,コンクリート杭に発生した亀裂・鋼管杭の腐食状況・根入れ長等については評価が困難であった。また,試験設備は大掛かりであり,多くの費用と時間を要する等の課題があった。
  これら課題を克服するため,衝撃弾性波法が適用されている。具体的な計測方法は以下の通り。
  基礎杭の頭部に受振センサーを設置し,その近傍をハンマー等で打撃する。発生した衝撃弾性波は(1)杭先端や,(2)杭中の亀裂面等の反射面で反射して受振センサーで計測されることとなる。杭の長さ・弾性波速度があらかじめ判れば,計測された反射波の伝搬時間(打撃時から受信時までの時間差)との関係から反射面までの長さを推測することが可能となる。反射面が杭先端よりも短い箇所にある場合は,反射面となる亀裂等が存在する可能性が示唆され,その位置(深度)も推定することができる。

 2) グラウンドアンカーの健全性評価
 長大法面等に施工されているグラウンドアンカーでは,グラウト充填の不備等によって芯材となる PC 鋼材が腐食し,所定の緊張力が維持できない状態になる場合がある。PC 鋼材の残存緊張力を計測する方法としては,引き抜き試験(リフトオフ試験)等があるが,PC 鋼材の腐食状況,グラウトの充填状況等の評価は困難である。また,計測には作業スペース確保の為の足場設置等に多くの費用と時間を要する等の課題があった。
  これら課題を克服するため,衝撃弾性波法が適用されている。具体的な計測方法は以下の通り。
  グラウンドアンカーの頭部に受振センサーを設置し,その近傍をハンマー等で打撃する。発生した衝撃弾性波は(1)アンカー材先端や,(2)途中の破断面または,断面欠損部等の反射面で反射して受信センサーで計測されることとなる。アンカー材の弾性波速度があらかじめ分かれば,計測された反射波の伝搬時間との関係から,杭の場合と同様全長・破断・断面欠損位置の推定が可能となる。また,アンカー材の弾性波速度や計測された時系列波形の卓越周波数は材料の応力状態(この場合は残存緊張力),拘束状態(この場合はグラウト充填の有無・状態)等によって異なることが判っており,健全な状態のアンカー材に関する分析結果があらかじめ分かっていれば,残存緊張力やグラウトの充填状況なども推定することが可能となる。

参 考 文 献



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